かつて、世田谷ピンポンズというフォークシンガーがいた。私は、彼の歌声が大好きだった。初めて彼の歌を聞いたのは、長谷川書店でのライブだった。本屋の中にも関わらず頭上を走る電車の音も聞こえてきたりして、まるで阿佐ヶ谷とか高円寺あたり、中央線の高架下での路上ライブを眺めているような幻覚がギターの響きと共にからだに刻みつけられた水無瀬の夜。大和郡山市のとほんさんでのライブにも、足を運んだ。ぶっきらぼうで、ときおりニヤつきながら毒づくMCも大好きだった。「ホテル稲穂」で長い間奏のギターを聞きながら、歌詞を忘れてしまったのではないかと胸を冷やしたのは内緒だ。
なぜだか家で皿を洗うときにイヤホンで聞く世田谷ピンポンズの歌が一番自分に刺さる気がしていた。けれど、家族が寝静まっているときの皿洗いでは、口ずさむこともできない。一度、一人で運転しているときにカーステレオから流れる世田谷ピンポンズの歌に合わせて大声で歌ってみたことがある。すごく気持ちが良かった。事故りそうになった。
昨年5月に、ほんの入り口をオープンしてしばらくは、営業時間中ずっと世田谷ピンポンズの曲を聞いていた。そのうちiPod が壊れて聞けなくなってしまった。この店で世田谷ピンポンズのことを知ってくれた人もいた。元々、世田谷ピンポンズが好きだった人もいた。ピンポンズさんのエッセイをわざわざうちで買ってくれた人までいた。いつか、世田谷ピンポンズライブをうちの店で、という願いはもう叶わない。代わりにやってくるのは、品品という名前のフォークシンガーだ。ピン、ポン。ピンポーン。世田谷を捨て、ズを脱ぎ捨てたピンポン玉。名実ともに「ひとりの歌手」になって、全国ツアーに転がり出す。
世田谷ピンポンズから品品(ピンポン)へ。新しい名前の入り口に立つフォークシンガーの歌を、本に囲まれた空間で。最高の夜になると思います。もう泣いてます。
品品ライブ『改名』奈良篇
日時:12月21日(土)開演19時(開場18:30)
参加費:2,000円
お問い合わせ・お申し込み:hon.iriguchi@gmail.com
品品 (ピンポン)
フォークシンガー。 ex.世田谷ピンポンズ
吉田拓郎や70年代フォーク・歌謡曲のエッセンスを取り入れながらも、ノスタルジーで終わることなく「いま」を歌う。
音楽のみならず、文学や古本屋、喫茶店にも造詣が深く、文筆活動も積極的に行う。
2012年『H荘の青春』でデビュー。今までにアルバム8枚、シングル4枚を発表。
2015年にはピース・又吉直樹との共作を発表し、注目を集める。
2018年自身初となるバンド編成でのコンセプトアルバム『喫茶品品』をP-VINE RECORDSより発表。
2019年『ときめき坂』、『ラブ』発表。
2020年初のエッセイ集『都会なんて夢ばかり』を岬書店(夏葉社)より刊行。
2022年3月KAGOME「畑生まれのやさしいミルク」CMで吉田拓郎『たどりついたらいつも雨降り』歌唱。
2022年5月『S・N・S・N・S』をデジタルリリース(のちにカセット音源化)
6月、エッセイ集『世の中には(以下省略)』、『品品喫茶譚』発表。11月、エッセイ集『品品写眞譚Ⅰ』発表。
2023年5月エッセイ集『品品喫茶譚Ⅱ』、自由律俳句集『and moreのなかに入れられている』発表。
2023年9月最新シングル『花束』をデジタルリリース。
早稲田スコットホールにて十周年公演『ノスタルジーですって?』を前野健太を迎えて開催。
2024年9月、下北沢ニュー風知空知に漫画家・大橋裕之を迎えて開催した自主企画『街の灯』にて改名を発表。
12月より『改名』ツアーと称して全国を巡業予定。
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